『はじまりへの旅』("Captain Fantastic")

ひとことで言うと合わなかった。言いたいことはわかるけど、気持ち良くは観れないっつーか。森の中で原始的な暮らしをするキテレツな一家(父親と6人の子供達)が都会に出てきていろいろなカルチャーショックを受けるっていうお話。既存の言葉で言えば多分「ヒッピー」。資本主義大反対家族。いろいろな人がこの映画を評価していて、それはわからなくはないんだけど、僕はメッセージの描き方が大げさすぎな感じがしたなぁ。
なんでこうも評論家の方々と感じ方にズレがあるんだろうって考えたんだけど、結局わからなかった。僕が、親が子供に与える影響について興味があるから?

この話に出てくる父親は学者で、詳しくは描かれてないけど多分社会に出ても普通にやっていけるんだろうし、父親になるまでは普通の暮らしをしていたんだろうと思う。彼の教育法はそんな一見「普通」な人が考え抜いた結果のものだからこそ、話を聞かずにそう簡単には否定できない。困った時に一人でも生きていけるようにサバイバル技術を学ばせる、体力と筋力をつけさせる、レベルの高い本を読ませまくることで知能をつけさせる、などといった教育法は一見理にかなってる。
実際それで長男は世界の名だたる大学に次々と合格したんだけど、その子は今まで森の中で過ごしてきたせいで「コーラ」が何か知らないし、女の子ともまともに話せない。本に書かれたことしか知らない。彼が都会に出て初めて自分が変人であることに気づき、”I know nothing! I am a freak because of you! You made us freaks!”って父親に訴える場面は胸が締め付けられる思いだったよ。僕自身体験の伴わない知識の詰め込みにはあまり賛成できないからこの父親のホームスクーリングに最後まで納得できなかったのが、心から楽しめなかった理由だと思う。

それ以外にも、誕生日プレゼントに狩り用のナイフをもらって喜ぶ子供をみても素直に笑えないし、食べ物救出作戦とかいって普通に盗みを教えてるのもやべぇと思うし、あの父親がやっているトレーニングは下手すれば周りの人が言っていたように「児童虐待」になりかねない。
どうしても子供がかわいそうだと思ってしまう。親は選べないから、選択の余地なくこの父親の思考に付き合わされるわけだし。

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(葬式にこんな格好で乱入しちゃうような一家。)

なんか、小さいことにケチをつける心の荒んだ鑑賞者みたいになってしまった。。。でもこの父親を完全に批難することもできないんだよな。
本作の父親は過去に何を経験したかがあまり深く描かれてなくて、だから彼が持っている信条みたいなものもあんま理解できない。こういう偏った理想主義を掲げているインテリほど自分の考えを曲げることに対して抵抗を持っていそうだけど、彼も彼なりに子供のことをおもっていて、だからこそ最後の最後に今までの信念を変えることができたんだと思う。

社会のあり方、社会との付き合い方、教育について考えさせられる作品ではあります。嫌でも「普通」について考えることになるので、自分が置かれている環境に甘んじて惰性で生きている人がハッとすることがあったら、それはこの映画がこの時代に出てきた意味なんだと思う。
最近政府の教育再生実行会議が「アカデミックな教育課程に偏りがちな大学を変革し、産業界が求める即戦力となる人材を育てよう」みたいなこと言って叩かれてるの、結構タイムリーだったりします。

なんか、ウェス・アンダーソン監督に撮ってもらいたい素材だったなぁ。