『メッセージ』("Arrival")

この作品は5月に公開される作品のなかではそこまで優先度高くなかったんだけど、上映後に町山智浩さんのトークショーがある上映回があるっていうんで、公開初日に六本木のTOHOシネマズまで観に行ってきました。町山さんの紹介はあとで書きます。

この映画、ポスターにうつってる宇宙船がばかうけにしか見えないということで日本人の間では公開前から「ばかうけ映画」として注目されてましたね。騒ぎすぎたのかついに監督の耳まで届いたらしく、「ばかうけに影響を受けたんだよ〜」みたいにどっかのインタビューでふざけて言ってくれたとか。日本人の発想、しょーもなくてごめんなさい(お前もじゃ←)。

バカでかいばかうけが地球にタッチダウンするところから物語が始まるんだけど、これより先を書くともうネタバレになってしまうので、これもあとで書くことにします。
いやー、僕の映画ブログではネタバレなしの感想を書くことにしているんだけど、この映画に限ってはどうしてもここまでしか書けない。うん。少なくともSF映画の枠を超えた傑作であることは間違いないとだけ言っておきます。

なので(←???)ここで一回脱線をして、そのあとでネタバレ感想を書くことにします。
脱線というのは、上映前の予告編に関して。『ローガン』の予告編なんだけど、あれめっちゃ大々的に「世界80ヶ国でNo.1!」みたいなの出るじゃん。あれちょっと引っかからない?なんで80ヶ国で公開されてんのに日本ではまだなんだよって。ローガンのアメリカでの公開、3月だよ?なんで日本では6月なんだよって。『メッセージ』に至っては本国では去年の11月公開だからね。日本での公開は半年遅れ。いま話題の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の監督だって、ネタバレを含むライブセッションを開くのを、最後の公開国である日本で公開されるまで待ってくれてたじゃん。日本人は毎度毎度どんだけ首を長くして待ってればええんじゃ。
洋画の日本での公開が遅いってのはかなり前からいろいろと言われてきたことで、なんなら日本での公開日と本国でのDVD発売日がかなり近いなんてこともある。
なんでこんなに遅いのか僕はよく知らないけど、もうちょっとなんとかしてほしいよね。いろんな事情があるんだろうけど!

ここら辺で話を戻します。

 

【これより先はネタバレを含むので未鑑賞の方はご注意ください。】

 

この話のキーワードといえばいくつも考えられるけど、その中の1つとして「サピア=ウォーフ仮説」があると思う。
サピア=ウォーフ仮説っていうのは、人間がみる世界は言語によって規定されるという考え方のこと。たとえば、雪を表す単語は英語よりエスキモーが使う言語の方が多いから、エスキモーの方がより細かいレベルで雪を認識できる、みたいな。僕は高校の国語の授業でこれを習いました。

さっきも書いたように、話としては、ある日突然地球に宇宙船が12隻到着するわけ。で、その中にいるエイリアンが、お前は赤ちゃんかってくらい意味わかんない言葉を話す(というより音を発する)から、主人公である言語学者がその解読に挑むことになる。早々と音声でコミュニケーションをとることを諦め、エイリアンの使用する文字の解読に勝負をかける主人公たち。同時に地球人の文字(英語)も伝え、なんとか解読の糸口を探そうとするっていうお話。

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(あたしたち、ヒューマンっていうの。あんたたちは?)

エイリアンが使ってる文字がこの話のキーで、これ、円にいろいろ模様がついてる表意文字なわけ。イメージでいうと漢字みたいな感じなんだけど、これは実は文字というよりは文章。かなりの情報量。調べると、原作者は中国系の人らしい。だからこの発想がでてきたのか。

f:id:oops_phew:20170522155316j:image(こんな文字があったら便利。書けなさそうだけど。)

で、これがこの話の中の一番のびっくりポイントなんですけど、このエイリアンの言語には「時」という概念がないので、学ぶと「時」を超越して未来が見えるようになるんです。ずぇってぇねぇから!!って誰もがツッコミを入れたくなるような設定。サピア=ウォーフ仮説を拡大解釈しすぎて物理法則を超越するレベルまできちゃってます。あれ、てか僕が去年ちょっと勉強したインドネシア語にも過去形とかなかったんですけど、それはまた違うんですかね。もう文法上の時制の話じゃなくて概念的に時間というものがなくて、下手したら現在という感覚もなかったりするってことなのかな。

言語関連以外にも特筆すべきことがあります。この作品は撮り方というか話の進め方がいままでにあまりなかったやり方になっていて。めちゃくちゃコアな話をしますと、この映画の最大のトリックは「娘との回想的なシーンは実は過去じゃなくて未来のものだった」ということなんですけど、このトリックの扱い方がうまいのよ。かなり斬新な手法。だって、映画の途中でフラッシュバックの映像が流れたら過去のものだと思っちゃうよね?未来のものだから、もはやフラッシュバックじゃないけどね。フラッシュフォワードっつーの?

そういった斬新な試みへの挑戦と両立して、ちゃんと映画としても面白いっていうのが素晴らしい。決して派手ではないんだけど、主人公たちと一緒に未知を体験しながら観ることができるので飽きない。あと、エイリアンとの遭遇を描きながらも最後にはパーソナルな話に落とし込んでいるのも引き込まれる。ちなみに、原作のタイトルは『あなたの人生の物語』(Story of Your Life)だそうです。なるほど。

ではでは、ここで町山さんの話に移ることにしましょう。
【これより先は町山智浩さんのトークショーの内容をもとに書いています。】

冒頭でも書きましたが、上映後に町山さんのトークショーがある上映回があるということで、いつもテレビやラジオでみている町山さんを生でみるために行ってきました。だいたい30分くらいで、皆からの質問に答えるという形でした。
町山智浩さんのこと知らない人もいると思うから、誰なんじゃいってことを簡潔に書くと、まぁ有名な映画評論家です。アメリカ在住なので、知識が豊富な印象。

トークショーの中で印象に残った内容をいくつか書くと、まずは「円環」というこの映画のテーマが、いたるところにみられるということ。エイリアンがくらげをモデルししたものであるのもくらげは前後がなくぐるぐるまわっているから。エイリアンの文字が円なのも、そういうこと。こういった細かいところだけじゃなくて、映画の最初のシーンと最後のシーンでうつってるものも音楽も同じ(らしい。音楽までは気づかなかった。)であるという作品の構造自体もテーマに沿っているそう。
えーとあとは、サピア=ウォーフ仮説に関連して、同じ人でも違う言語を話すと性格がちょっと変わるっていう話もされてました。英語を話す時より結論を後回しにする日本語を話す時の方が曖昧な性格になる、みたいなね。この研究はどっかで読んだことあった。
それと、時に関する作品には起こりがちな「タイムパラドックス」もちゃんと起きています。将軍に電話するシーンとか、未来の自分が書いた教科書みて読み方を理解するシーンとか。こういったことにも注目してみるとまた違った楽しみ方ができるかもしれない。

なんかまとめられた動画があがってるんで貼っておきます。ここに書かなかったこともたくさんあるので興味ある方は観てみてください(カットされている部分もありますが)。

【ネタバレあり】町山智浩氏映画『メッセージ』徹底解説まとめ動画 - YouTube

観客はオッサンばっかりだったんですけど、出てきた質問もあの映画との関連が〜とか、この思想との関連が〜みたいな、皆さんさすがいろいろ知ってんなぁって思うやつばかりでびっくりしちゃいました。

ちょっと長くなったけど、今回はこんな感じで。